熱帯塩水養殖池の水温異常現象のメカニズム解明と現象の応答としての水質異常・水産病害の実態把握

近年,環境負荷が高い集約型養殖から脱却し生態系復元を目指す動きとして,特に東南アジア諸国において,環境配慮型の粗放養殖に回帰する動きがあります.粗放養殖は,自然地形を利用して養殖池を構築し,周辺の河川水および潮汐流を利用して水管理を行い,水環境に含まれる生物を給餌する養殖手法です.この粗放養殖は,環境復元・改善効果が認められていますが,環境水理学的には,水環境異常を誘起しやすい養殖手法と考えられます.具体的には,熱帯特有の雨季の降雨と,降雨後の暑熱が契機となり,水環境異常が発生する可能性があります.

タイ・サムットソンクラーン県の粗放養殖池

まず,養殖生産水として海水あるいは汽水が利用されていることから,降雨が養殖池に流入することにより,淡水と塩水による塩分成層が形成されます.この塩分成層が形成されている状態で暑熱による水温上昇が起こると,淡水と塩水の境界部にあたる塩分濃度勾配層が非対流領域となり,物質循環や熱循環を妨げた結果,水環境異常を誘起します.
下の図は,タイ・プラチュアップキーリーカーン県の塩水養殖池で観測した,熱帯特有の降雨に起因する水環境異常の一例です.通常,水の密度は,水温が高いと軽く低いと重くなるため,水深が深くなるにつれて水温が低下します.しかしながら,観測事例では,降雨によって塩分成層が形成された後に,水底から水域中層程度で40℃近い水温が維持されている期間があります.

 

塩分濃度勾配層の非対流メカニズム

ブラックタイガーの養殖池の現地観測結果

観測期間:2019年8月1日~9月30日
観測池:カセサート大学クーロンワン水産研究所内実験養殖池

塩分濃度勾配層の非対流領域可視化実験

上層:塩分濃度=1.7% 水温=25.0℃,下層:塩分濃度=4.7% 水温=42.0℃
鉛直方向の中心部にあたる塩分濃度勾配層が非対流となってる.上層の水塊は沈降するが,非対流領域手前で上昇する.下層の水塊も上昇するが,非対流領域で沈降する.

このような水温異常が塩水養殖池に発生する場合,水質の劣化,病原微生物の増加を招くため,養殖物の生産性や安全性の脅威となると考えられます.
私の研究では,これら一連の水温異常現象について,カセサート大学水産学部と協働して,現象メカニズムの解明,現象の応答としての水質動態,水圏微生物動態の解明について,現地観測,室内水理実験,水質分析,細菌叢解析,数値シミュレーションなどに取り組んでいます.

細菌叢解析結果
水域蓄熱が発生した後に細菌叢が変化している

  水質・細菌属構成割合の主成分分析
Francisella属,Synechocystis 属,PCC-6803Cyanobiaceae属が水温とのスコアが近い

 

降雨による水温拡散シミュレーション(実験水槽スケール)